藤井真則のブログ

このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
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TOP > 治験失敗報道(がん幹細胞性阻害剤)

2017年06月28日

  

がん, くすり

2017.6.28.

 

 

 

大日本住友製薬さんの

抗がん剤「ナパブカシン」の

治験の結果が芳しくないという

ニュースが一般メディアにも

流れています。

 

この薬、がん幹細胞性阻害剤という

ジャンルに含まれるものです。

 

 

がん幹細胞をなんとかすれば

再発や転移を抑えられる、とか

薬剤耐性に対する対策になる

といった期待があるわけです。

 

 

薬剤耐性については

どんな薬剤に対しても、

耐性をもっているがん細胞は、

最初から存在すると

考えられています。

 

がん幹細胞単独の状態では

発見することができませんし

ある程度、「臨床的がん細胞」というのですが

まあ、一般的な

細胞の数が沢山、増えていく「がん細胞」に

分化していると、つまり、がん幹細胞が

一般的ながん細胞に化けて、そして

腫瘍を形成していると、そこから

がん幹細胞をやっつけても

薬剤耐性を回避するのは無理があります。

もう薬が効かない一般のがん細胞が

存在するからです。

 

抗がん剤投与で腫瘍が縮小し

今度は、縮小が頭打ちになって

反撃してくる分岐点を

薬剤耐性の出現という言い方を

しますが、当然ながら、そこで突然

薬剤耐性をもつがん細胞が現れたのでは

ありません。

 

最初からいるものが、徐々に数を増やしてきた

のですが、殺されていくがん細胞の減少数より

薬剤耐性がん細胞の増殖数が少ない間は

画像上は、縮小しているということです。

 

 

今回は、胃がんで治験をやってみて

効果が見られない、ということです。

 

胃がんの場合、手術後の再発・転移までの

期間が短いので、がん幹細胞を抑えて

再発や転移を防止する効果がでているのであれば

比較的、短期間の治験でも、新薬を投与した場合と

投与しなかった場合で、再発や転移に至る率に

差異がでやすく、それは、おそらく余命の延長にも

つながる、と、考えられます。

 

そう考えれば、治験の対象として、

胃がんを選択するのは

妥当な判断のようにも見えるわけです。

 

一方、再発や転移に至るまでの期間が短い

ということは、裏を返せば、素早く腫瘍形成

している、ということであって、

仮に、がん幹細胞を抑えることができたと

しても、もう腫瘍を形成するのに必要な

様々なタイプの臨床的がん細胞が揃っており

薬剤耐性をもつがん細胞も存在するとなると

臨床上の効果は見えない可能性もあります。

 

こういうのは、理屈の上での話ですから

実際に、やってみないとわからないのですが

次の手として、もう少し、再発や転移に

至る期間を要する他の部位の治験に集中する

というのも、それはそれで妥当な考え方の

一つということになります。

 

 

ただ、がん幹細胞を狙う薬の開発は難しいですね。

 

 

そもそも、狙えるのか、という本質的な問題が

あるのですが、仮に、狙えるものがあったとしても

体内で、がん幹細胞だけが、存在している期間が

そこそこ長いのであれば、がん幹細胞を攻撃

することで、進行を遅らせることができるかも

しれません。 ですが、進行がんの場合、

もう臨床的がん細胞自体が、大量に存在し

分散していると考えるべきで、こちらを

排除しないと、明確な効果は表れません。

 

 

で、狙えるのか、ということですが。

がん幹細胞特有の物質とか

信号伝達というものはみつかっていません。

がん幹細胞のマーカーとして知られている

物質も、正常な幹細胞にみられるもので

「幹細胞」に障害を及ぼす強力な薬剤が

開発されたとすると、今度は、正常な

幹細胞にも害が及び、副作用がどうなるかが

問題です。 というのは、がん幹細胞が

臨床的がん細胞に化けるよりも

圧倒的に高頻度で、正常な幹細胞が

正常な細胞に分化しているのです。

これを止めてしまうと、障害がでない

はずはありません。

 

 

今のところ、各社が開発中の

がん幹細胞性阻害剤の実態は

がんに対する特異性はなく

また、本当に幹細胞の息の根を

止めるほどの威力があるのかも

疑問です。 複雑な信号伝達経路の

いくつかのプロセスを止める薬剤が

開発中ですが、どこかを止めると

バイパスがつくられる、というのが

生き物の生き物たる所以であり

しかも、がんの方が一般に正常な細胞より

バリエーションが多いため、

薬剤による攻撃に対しても

耐性を獲得しやすいのです。

 

 

がん幹細胞が再発や転移の

重要な鍵を握ると考えられているのですから

これを抑える薬剤が登場するのは

大歓迎です。

ただ、非常にハードルが高い

テーマですねえ。

 

 

NK細胞はどうなのか、というと

まず、体内のがん幹細胞を

実際に殺しているかどうかを

調べる方法はありません。

体内のがん幹細胞を正確に

見極めるのは難しいからです。

 

体外に採りだした腫瘍組織に含まれる

腫瘍性の細胞を全滅させることは

確認できますので、おそらく

がん幹細胞も殺しているはずですが

厳密にがん幹細胞かどうかを確認するには

腫瘍形成能力を調べる必要があります。

 

これは物凄く手間と時間がかかる上

腫瘍を形成してしまうころには

もう、元の単体としてのがん幹細胞は

残っていません。 もちろん、

細胞分裂させて、一部を腫瘍形成試験

一部を保管しておけばいいのですが

細胞分裂をさせればさせるほど

はて、ほんとに幹細胞かいな、という

疑問が強くなっていきます。

 

とにかく、実験が難しい細胞です。

 

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