藤井真則のブログ

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2013年10月05日

  

がん, 免疫

2013.10.5.
 
 
NHKのサイエンスゼロやクローズアップ現代で
とりあげられた「がん幹細胞」に関して、その後も
問い合わせが続いています。
 
 
これらの番組では、がん幹細胞の攻撃を目的とする
治療法についても紹介があり、前回の書き込みでは、そのうち
細胞表面物質CD44を標的とする薬剤について
書かせていただきました。 
 
そんな簡単にはいきませんよ、ということですが、
では、同じく、これらの番組で紹介された
改変ヘルペスウイルスを用いる手法についてはどうでしょうか。
 
 
ヘルペスウイルスの遺伝子を三か所、改変した上で
がん患者に感染させ、ウイルスにがん細胞を狙い撃ちさせる、というものです。
 
遺伝子の改変の一つ目は、アポトーシス(細胞自死)のスイッチのようなものを
潰しておく、というものです。
通常、細胞は、ウイルス感染を受けるとアポトーシスを起こし
細胞自ら死に至るスイッチが働くようになっていますが、
ウイルス遺伝子に含まれる細胞死スイッチにブレーキをかけるものを潰すとしています。
このため、正常細胞にヘルペスウイルスが感染してもアポトーシスを
おこして正常細胞は死んでしまい、それ以上、ウイルスの感染が広がらなく
なるのに対し、がん細胞は、アポトーシスを起こす装置が壊れているので
影響なく、がん細胞は細胞内でウイルスが十分、増殖するまで死なない、としています。
 
二つ目は、ウイルス増殖に必要な物質を合成する遺伝子を潰すことで
正常細胞内では、ウイルスの複製がうまくいかない、一方、がん細胞の内部には
元々、その遺伝子がつくる物質が大量に存在しているので、がん細胞内では
ウイルスは問題なく増殖する、と。
 
三つ目は、ウイルス感染細胞は、細胞表面にウイルス由来物質を旗印として出してしまい
免疫系の攻撃を招きます。 そこで、ヘルペスウイルスが、感染した細胞が免疫系に
攻撃されないように、目印をひっこめさせる遺伝子をもっている、よって、その遺伝子を
潰しておくことで、免疫系から攻撃されやすくする、こうして、免疫系による
がん細胞の攻撃を誘導するのである、としています。
 
 
 
さて、ウイルスの遺伝子を改変し、正常細胞に感染はするが、増殖はしない、
という発想は、研究レベルでは、「実によくある」一般的な手法です。
 
ただし、通常、遺伝子治療に用いることを想定するもので、がん治療に
用いるというのは、レアなケースです。
 
ある特定の遺伝子をウイルス遺伝子につないでおき、そのウイルスに
一回は感染するが、それ以上、増殖・再感染はしないような細工をしておき
この改変ウイルスを感染させることで、目的の遺伝子を患者さん体内の
細胞の中まで運ばせる、というものです。
 
 
実際はどうなのか、というと、遺伝子治療の治験は、数百社もの
バイオベンチャーがスポンサーとなって、各社ぞれぞれ大規模臨床試験を
実施しましたが、うまくいったものはありません。
遺伝子治療は、ほぼ例外なく、失敗してきたのです。
もちろん、がん細胞を殺す話と、遺伝子治療は別なので、
遺伝子治療でダメだった、よって、改変ウイルスによるがん治療はダメと
決めつけてはいけないのですが、そうはいっても、改変ウイルスを人体に
人為感染させる難しさには、共通のものがあります。
 
 
まず、改変ウイルスの量産時における安全管理は難しいのです。
 
増殖しにくくしたウイルスを大量増殖させるのですから、原理的に
無理があるのですが、がん治療に用いるのであれば、がん細胞を
大量培養しておき、そのがん細胞に感染させながら、ウイルスを
増殖させることは理屈の上では可能です。 実際には、体内にいる
がん細胞と同じ性質のまま、体外で大量にがん細胞を培養するのは
むつかしいのですが。
 
あるいは、正常細胞に、別途、さきほど、「潰した」遺伝子を供給しておき、
この遺伝子追加正常細胞をホストにして、改変ウイルスを増殖させることができます。
すると、ウイルス自前の遺伝子群に欠けているものを、ホスト側の
細胞に導入された遺伝子が補ってくれるので、ウイルスは増殖します。
ところが、外に飛び出した新しく合成されたウイルスは、やっぱり
潰された遺伝子はそのままですので、まったく遺伝子操作していない
正常細胞に感染した場合は、うまく増殖できません。
ただし、遺伝子追加細胞が存在する限り、果てしなく感染、増殖を
繰り返していきます。
遺伝子治療の場合は、こうやって改変ウイルスを増殖させるのですが、
大きな問題があります。 遺伝子というのは、結構、簡単に組換や
取り込みが起こるので、大量増殖中には、潰したはずの遺伝子を
再び取り込む奴がでてきます。 実際、米国における遺伝子治療においては
この再強毒化が原因で、死亡例も出ています。
 
また、ウイルス生産工程では、ウイルスの邪魔をするシステムが働いていませんが
人体内には、ウイルスを分解する酵素が大量に存在し、ウイルス感染細胞を
殺しに来る免疫細胞もいます。 
人体内では、そう簡単に、ウイルスが無制限に増殖することは
ないのです。」
 
 
次に、ウイルスの人為的な感染は、結構、難しいという問題があります。
 
ウイルスはやみくもに感染しまくるものではなく、かなり厳密に感染する
相手の細胞が決まっていて、ウイルスと感染を受ける細胞のレセプターが
あわないと、なかなか感染してくれません。 細胞がウイルスを招き、
細胞内にウイルスが入れるように、専用の受け口をもっているのです。
そのため、果たして、多様性に富む、現実のがん患者さんのがん細胞集団に
対して、人為的に合成された改変ウイルスが、くまなく感染してくれるのか
疑問があります。 結局、感染できないがん細胞が残れば、そいつが増殖して
しまいます。 実験的に、用意された、遺伝子が均質ながんネズミで
うまくいっても、現実の人間のがん患者にはうまくいかない、これは
「非常に多く」みられる現象です。
 
 
また、野生のヘルペスウイルスと遺伝子の組み換えを起こさないのか、
という懸念があります。 ヘルペスウイルスは、私たちの細胞の中から
ウジャウジャとみつかります。 いくらでもいるのです。
そこへ、都合よく、遺伝子の一部を潰した改変ウイルスが感染していくと
細胞内には、野生のヘルペスウイルス遺伝子が存在する、ウイルス感染によって
遺伝子の複製が加速されると、往々にして、おとなしくしていた野生のウイルス
遺伝子が働きだすことがあります。 
するとたちどころに野生型のヘルペスウイルスに逆戻りする。
がんネズミの場合は、ヒトヘルペスウイルスの野生型は元々、いませんから
人為的に合成した改変ウイルスと、野生型のウイルスが組換を起こすことは
ないはずですが、生身の人間様となると、野生型ウイルスの存在を
想定しなければいけません。
 
 
ああだ、こうだ、言い出すときりがないのですが、ウイルスを人為的に人間に
感染させるのは、机上の理屈や、がんネズミの実験のようにはいくものではありません。
遺伝子治療の場合、次々に恐ろしい副作用が発生したわけではありませんが、
ろくに効き目がでなかった、という目論見違いの山を築きました。
 
がん退治の場合は、話が違うでしょうが、ヘルペスウイルスというのは
そもそも、そういつまでも体内で暴れるものではなく、そんなものが都合よく
がん細胞だけを全滅させるまで暴れつづけるのでしょうか。
逆に、見事に免疫の攻撃を逃れ、継続して増殖できるような改変なのである、
となると、もし、正常細胞中でも増殖する変異や組換を起こしたら、とんでもない
危険な新型ヘルペスウイルスの誕生となってしまいます。
 
おそらく、異常に危険な新型ウイルスの出現には至らず、何となくウイルス感染の
波が消えていくことになるのでしょう。 なぜなら、特定の遺伝子を潰しただけで
免疫系の攻撃を回避できるなら、そのような変異は、日常から発生し、おそるべき
スーパーヘルペスウイルスが誕生しているはずです。 今のところ、人類がスーパー
ヘルペスウイルスの出現におびえるような状況にはなっていませんので、多少、
遺伝子が脱落したぐらいでは、スーパーヘルペスにはならない、ということです。

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