藤井真則のブログ

このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
本ブログは、あまり標準的ではない特殊な治療の普及にあたり、「常識の壁」を破るために、特に分野は特定せずに書かれたものです。「常識とは、ある特定の組織・勢力の都合により強力に流布されて定着したからこそ、常識化した不真実であることが多い」という前提で書かれています。

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2020年04月18日

  

えとせとら

PCR検査は古くから使われているものですが新型コロナウイルス騒動により俄かにピーシーアールという音がTVなどで語られるようになりました。PCR自体は非常に「感度」が高い検査手法であり特定の配列をもつDNAやRNAの断片がわずかでもあれば見事に検出します。ところが、サンプルの取り方が適切でなければ間違った結果がでてしまいます。新型コロナウイルスに感染しているかどうかを個々に正確に判定するには「かなり問題が多い」ものです。日本は検査総数を制限してきましたがこの検査の特性を考えれば妥当な方針と考えます。むしろここへきて検査数を増やせとの圧力により段階的に検査総数を増やしてきましたが当然、感染と診断される人の総数が増えてしまいます。マスメディアは毎日、感染者数をただ数字として発表しますので検査総数が増えたことによるのか実際に感染が拡大しているのかわからない状態で数字が独り歩きしています。またサンプルの取り方が問題ですので、いきなり慣れていない人を大量投入すると精度を維持できるのか、とか、検査の際に綿棒を鼻へ「突っ込む」のですが当然くしゃみをする人が絶えず、至近距離からくしゃみを浴びせられる医療従事者が続出するわけでそこが新たなクラスターになっては何をやっているのかわかりません。 科学的データというのは単純に検査装置を買ってきてデータを取ればいい、というものではなく操作員の連弩が安定したデータを出せるのか、人による差異はどうなのか、特にサンプリングの質を一定にできているのか、いろいろと検証すべきことが多く、ただ「数を増やせ」というだけでは精度が下がる可能性があります。 もちろん、そういったことを考慮してやればいいのですが「感染者数」をマスメディアからリアルタイムに近い形で報道するのであれば、検査総数が増えたことによるバイアスを排除するべく総数と一定の同じ基準でデータを取り続けた検査結果の数字と両方を発表するなど、何か工夫が必要です。

 

PCR検査の原型は私が学生時代には研究用に使われていましたので40年以上の歴史があるはずですが当初は特定のDNAやRNAの「鎖」を大量コピーする目的で考案されました。 DNAやRNA鎖の合成を手作業でやるとものすごく面倒だった時代に、鋳型が1本でもあれば、単純な作業を繰り返すだけで大量にコピーがつくれる画期的な実験手法でした。 まず鋳型のDNAやRNAの鎖を元に対応する鎖を合成して鋳型とコピーが結合した二本鎖にします。二本鎖はそのままくっついたままで合成反応は止まるのですが、二本鎖になったものをバラバラにして再度、バラバラにされた一本鎖を鋳型にしてコピー(Gという塩基のお相手はC、とか写真のポジとネガのように反転させたコピーですが)をつくると単純に考えれば2倍のコピー数になります。 この反応を何回も繰り返す度にコピー数は倍々ゲームで増えていきます。 RNA分子を数珠繋ぎにしていくRNAポリメラーゼの連鎖反応なのでポリメラーゼのPにチェーンリアクションでPCRと命名されました。 学生時代には温度を上げて反応をとめていました。80度C位にあげたような記憶があります。RNAポリメラーゼは煮ても焼いても食えない丈夫な酵素で自然環境の中でもしぶとく活性を維持し続けます。高温にしても壊れませんが、高温の間は酵素活性がなくなり、温度を下げるとまた働きだすので、常温→鋳型を元に鎖のコピーを合成→高温にして反応をとめ、二本鎖を一本鎖にバラす→常温に戻して一本鎖を鋳型にコピーをつくって二本鎖にする、 これを繰り返したわけです。 後年、もっとスマートなやり方が工夫され、反応時間が劇的に短縮されることになります。

 

 

この一連の反応を応用すれば、ごくわずかなウイルスゲノムを抽出しても、コピーを大量に増やして分析すればそこにウイルスがいたことを検出できる、と考えた人がいて、国際特許が出願されウイルス検査のスピードと簡便さを革命的に改善させる検査キットが製品化されました。もちろん基本特許はとっくに期限が切れています。

 

原理的にはウイルスゲノムが「1個」、つまりウイルス粒子が1個だけいても検出可能な「感度」をもちます。ところが、実用にあたってはいくつも問題があります。 どうやってサンプルをとるかです。そう都合よく実験環境の様にきれいな目的ゲノムが小さな容器に収まってじゃまをする物質は一切存在しない、とはいきません。

 

なお「何個いたのか」という定量性はあまりありません。反応回数から逆算して元々、何コピーいたのかを類推することは可能ですがさほどの精度はありません。

 

どうやってサンプルをとるかは相手によって異なります。気道感染するウイルスならば経験上、気道粘膜細胞を綿棒で物理的にこそぎ取るのが確実性が高いやり方で、新型コロナウイルスもそうしています。私も遺伝子やウイルスはよく扱っていましたが、患者さんからサンプルをとってくるのは門外漢で実際にどういう手技が自分でやったことはないのですが、ともかく綿棒を鼻に突っ込んで奥の方の粘膜をサッとこそぎとってきます。 とる場所がずれたり、取り方がまずいと精度に影響がでるはずですが、そう簡単に評価はできません。 よく精度は30~70%という言い方をしますが、それはつまり「よくわからない」ということとそれほど大きな差はありません。 サーズウイルスや「鳥型」のままのインフルエンザが人に感染した場合は肺の奥の方に感染し、気道の上部にはあまりいませんが新型コロナウイルスは気道の上部に概ねいるようです。一般のコロナウイルスとそこはかわりありません。ところが新型コロナウイルスの場合は、よくいるコロナウイルスと違って、肺の奥まで広がることがあり、そうなると重症化リスクが高まるようです。 目的のウイルスゲノムを大量に抱える感染細胞をとれたのか、他人のウイルスが混じっていないか、検査する人自身が感染者だった場合は話になりません。 ある特定の場所にいた人の多くが陽性反応ときくと、つい、それって検査した人ひとりが本物の陽性だった可能性はないのかな? と勘ぐってしまいますが、そこは症状がでているかどうかとか複数の項目でチェックするので大丈夫でしょう。 ほかにも人間の体液にはウイルスをバラバラに分解する様々な酵素がありますので、もたもたしている間にウイルスが分解されないのか、検査結果が間違う要素はいくつもあります。よくウインドピリオドといいますが、感染はしているけどもまだウイルスは検出できない期間というのもあります。 エイズなんかはこれが長いわけです。 陰性とでたけど体内にウイルスはいるのかもしれません。 新型コロナウイルスの場合はあまり長いウインドピリオドを想定する必要はないようですが、実験するわけにはいきませんのであくまで推測です。感染はおわったのにウイルスゲノムが残っている可能性はどうか? ちょっと考えにくいですがないとは言えません。 要するにウイルスが直接見えるわけではありませんので細部はわからないことだらけです。

 

本来、特定の施設で熟練した人が一定のルールで検査を続けていく「定点観測」を行うと結果も安定しますし、今、ある感染症が流行の兆しを示しているのか、おさまっていきているのか、という傾向がわかります。実際に感染症サーベイランスという定点観測がいくつもの感染症を対象に実施されてきました。この場合、完全な精度でなくてもある一定の精度があれば十分データとして使えます。もちろん騒ぎになったから多くの人がおしかけた、こういうバイアスは常にあり得ます。 インフルエンザはもともと、年中、流行しているのですが夏はおとなしいので誰も検査を受けなかっただけで騒ぎになって検査をする人が増えると少し流行していることがわかりました。  全体の動きを捉えるのではなく、特定の人が今、感染しているのかどうか白黒はっきりしろ! という目的で使うとなると、高い精度がないと混乱を招くわけですが、高い精度があるのかどうか検証するためにはもっと高い精度の検査システムが存在し、その結果と比較しないと結論はでないわけですから新型ウイルス出現となった場合は走りながら検証を重ねていくしかありません。

 

なお10人の鼻に綿棒をつっこむと必ず何人かはくしゃみをするといいます。至近距離からおもいきりくしゃみを浴びせられるわけですから、サンプルをとる医療従事者は慣れていないと自分が大変です。検査件数を増やせというが、本音のところ勘弁してよ~~ という人もいらっしゃるのでは? ちなみに一般の人が自分でサンプルをとるのは「あてにならない」と考えられています。日本の検査件数が低すぎることがいろいろと話題になりますが、どうせ「治る」ような薬はない、エイズやC型肝炎なら劇的に延命する薬物療法もありますがそれでも治るまではいきません。インフルエンザに対する薬も症状のピークの山を低くする薬で治せるわけではありません。 ウイルス感染症に関しては本気で対策を練り、極めて高い致死率なので治療薬にもかなりの副作用が容認されるといった背景もあってエイズとC型肝炎には切れ味鋭い薬(複数を組み合わせて使うのですが)がありますが、他のウイルス感染症にはそこまでの薬はありません。 一方、呼吸困難に陥るとそれが新型コロナであろうがインフルエンザであろうが、他の何かであっても措置をしないと命が危ないです。 重症者の速やかな搬送と救命措置、ここを押さえておけばあとは軽症者も多いのに不用意に検査のためにウロウロ外出されてもたまらん、という考え方は妥当ではないでしょうか。 流行初期に感染源をつきとめ封じ込めというのは常套手段ですが、感染拡大を止められなかったら検査で陰性となるまで入院させるより早く重症者のためにベッドを空ける方が優先です。 そうしたかじ取りは何が正しいか誰にもぜったいこうだということは言えないわけですが、その際に検査手段の精度は必ずしも高くないこと、ウイルスが何者であろうと、重症者に対する措置はあまり変わらないことは忘れてはいけません。

 

 

ところで「何を」検出しているかですが、ウイルスそのものをみているのではありません。新型コロナウイルスの場合は、RNA一本鎖のプラス鎖のゲノムをもつわけですが(プラス鎖というのは鋳型ではなく、そのままたんぱく質の合成の設計図に使えるもので、鋳型の場合はマイナス鎖といいます。インフルエンザウイルスは同じRNA一本鎖のウイルスですが、新型コロナウイルスと異なりマイナス鎖ですのでウイルスの増殖メカニズムが異なります)ただDNAやRNAの鎖がゴロンとあるだけでは、これを鋳型にしてコピーをつくることはできません。 逆に、混入している関係ないDNAやRNAの鎖も一緒に大量コピーされるとウイルスゲノムが紛れてしまいます。 お目当てのウイルスゲノムだけを大量コピーしたいわけです。 そこでプライマーというRNA分子が何個かつながったものを投入し、これが鋳型の特定部位、つまりプラスとマイナスが丁度逆向きにピタリ合う塩基配列の部分に結合します。 そしてRNA分子の鎖をつないでいくRNAポリメラーゼやこれに協力する酵素やたんぱく質の複合体には、プライマーが結合している「つづき」からRNAの鎖を合成するものを選んでいます。 PCRの基本は相手がどんなウイルスであっても共通のものを使えるのですが、要は検査システム毎にプライマーをどう設計するかです。 新型コロナウイルスであれば必ずもっている特徴的な塩基配列であり、かつそうめったに変異しないところを適切に選ぶ必要があります。変異されるとPCR検査では陰性ながら変異ウイルスに感染していた、という事態になりかねません。 またよく似た配列が目的のウイルス以外にある場合は偽陽性になってしまいます。 あまり短すぎるプライマーは偶然似たようなものにも結合し、あまり長過ぎると本物のウイルスゲノムが目の前にあってもわずかな変異があった際に結合しなくなります。上流にあるものを選んでおかないとプライマーより上流が合成されない、端っこどうするの? コピーする度に鎖が短くならないのか? 、、、、、 ものすごく深く面倒な話なのですが新型ウイルス出現となると、徹底的に多くの「株」を集め、ここなら変化しない「コア」な配列があるぞ、とか分析するわけです。 

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