藤井真則のブログ

このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
本ブログは、あまり標準的ではない特殊な治療の普及にあたり、「常識の壁」を破るために、特に分野は特定せずに書かれたものです。「常識とは、ある特定の組織・勢力の都合により強力に流布されて定着したからこそ、常識化した不真実であることが多い」という前提で書かれています。

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2009年02月02日

  

くすり

戦後の医薬品市場は日米欧先進三極を中心に動きます。日米欧といっても十数ヶ国を指しました。 これらの地域だけで医薬品市場の8割相当に達し、それ以外の地域といってもソ連、東ドイツを含む東欧諸国、スペイン、ポルトガル、ギリシア、メキシコ、インド、台湾などで、残りの殆どを占めていました。 今では想像もつきませんが中国は東北三省(黒龍江省、吉林省、遼寧省)、つまり旧満州帝国以外の地域は第三世界と看做されていました。
 
就職後まもなく、医薬品は、殆どが一部先進国で使用されているという事実を知った時、貧しい国の人々の方が病気が多いだろうに医薬品は豊かな地域の人々だけが使えるという現実に理不尽を感じましたが、まあ駆け出しなのでとにかく仕事を覚えてから色んなことを考えようと、業務に埋没したのでした。 アフリカ向け経済援助はすぐに取り組み、社内に医薬品の経済援助のノウハウがなかったのでライバル商社の担当者にコンタクトを取り「教えてください。」 とお願いしました。向こうも、唖然としてましたが何故か断れなかったようで一通り、教えていただきました。 
 
米国は公的健康保険が全く存在しない訳ではありませんが基本的に自由診療体制で、お金がある人は医療保険、
ない人は医療を受けるのが難しいシステムです。例えば「がんの標準治療」といっても米国で標準治療を受診する人は患者の半分未満です。これはお金の問題です。薬価に対する行政の財政を背景とするコントロールはありませんので、
医薬品メーカーにしてみれば米国市場は承認取得コストは最高ながら、高い利益率を確保でき欧州統合前までは一市場として圧倒的に巨大でした。
 
もっとも、米国には黒人専門に安価な薬を売るブラックマーケットが存在します。 ブラックというのは文字通り黒人という意味です。 米国の黒人にニガー(ニグロ)と言うと差別用語となりますが、ブラックは差別用語とは看做されません。
 
リーダーの「マルコムX」(TSUTAYAでレンタルしてます)が暗殺された事件で有名になった黒人組織「Nation of Moslem」が彼ら流の言い方をすると白人の政府が承認した薬は値段が高すぎて黒人には買えない、それは文句言わないから黒人が買える値段の薬を我々独自に承認させてくれ、と要求します。 米国政府としてももちろん、白、黒、二つの政府を
認める訳にはいきませんが、この組織ネーションオブモスレムはワシントンで65万人のデモを組織するなど侮れない実力を持ちます。旧ソ連でも米国でも黒人の人口増加率が白人の増加率を圧倒し米ソ両国ともいずれ黒人が大統領を務めるイスラム教の国になると言われさえしていました。オバマ大統領が登場する前ですから黒人大統領というのは白人社会では「悪い冗談」のように言われていました。で、表向きは人道上の配慮ということで、米国の白い政府は黒い政府の「黒人向け承認」を「公然と黙認」します。 黒人といっても「colored」だと、有色人種だと言われましたが、じゃ日本人はと聞くと「あほ、日本人は白人とおんなじ」と言われました。実際にどうするのかと思ってましたが、審査委員会ではちゃんと、白い政府からもFDAの担当官や、NIHの専門家も会議に出席し、感染症の場合だけと言ってましたがCDC(疾病コントロールセンター)からの出席者も科学的・医学的見地から、アドバイスをしていました。 こうして「承認」された薬は特定のドラッグストア網のみで販売されます。 「1shot 1 doller」 1錠1ドル というのが薬価の相場です。
 
また、米国は、慈善事業の盛んな国です。医療産業はGDPの概ね14-15%前後で推移してきましたが、軍事産業は6%、Donation というカテゴリー、まあ寄付という意味ですがこれが5%にも達します。 これは、あらゆるものを含みますので米国内の貧民層の医療向けに廻るのは、ごく一部ですが教会やボランティア団体を通じて薬を買えない人々向けの医療サービスというのもあります。
 
どんな薬の開発もそうですが、患者さんが集まるところへ行かないと実態も分からないし、臨床試験に応じてもらう患者さんが集まりません。 エイズの場合、やっかいだったのは麻薬ルートで一気に患者さんが増えたので阿片窟まで出向く必要がありました。 こちらも命が懸かり迂闊な場所に不用意に近づくわけにはいきませんが、そういう場所でボランティアで働くお医者さんも沢山いらっしゃるのです。 日頃、お金持ち相手に稼いで年に何ヶ月かボランティアで働くんだそうです。 
プエルトリコにも無給で働く日本人のお医者さんがいらっしゃったので現場案内をお願いしました。 余程、信用されているのでしょう、その方が連れてきたということで歓待こそされ身の危険を感じたことはなかったです。 (相当、やばい、場所だったはずですが)ちなみに、プエルトリコは米国の属州です。新薬の試験の許認可は得やすく、かつ米国臨床データと看做されるので、世界各国の主要医薬品メーカーが治験の拠点を置いていました。 ただし全米三箇所で試験をすべき、という条件の中でプエルトリコのデータは一つまでしか認められませんでした。
欧州は承認取得コストが最も安くあがり、国によって倫理委員会さえ通せば人体を使う試験を簡単に実施できるため、
まず欧州での開発を先行させる傾向がありました。 同じデータをどこの国でも使えるようにするハーモナイゼーションが実効を伴い始めるのは90年代に入ってからです。今日では当たり前になったグローバルベースの同時開発は20世紀の終盤に差し掛かるまでは、かえって国ごとに同じ試験を繰り返すことになり二度手間コストのかかるやり方でした。高い薬価を狙うなら米国から、薬価が低くても早く承認が欲しいならフランス辺りから承認を取得し、その後承認取得に使用したデータや治験用薬剤をパッケージとするライセンスを各国地場の医薬品メーカーに供与し、各国の承認申請費用はライセンスを買った各国医薬品メーカーの負担、ライセンスを供与した側はライセンスフィーを前金で受け取り、更に承認取得後はロイヤルティーをとり、バルクと言いますが医薬品有効成分を独占的に供給し続けることで安定ビジネスとしていました。今日では薬価取得こそ米国先行ですが臨床開発は米国の治験データが見えてくると全世界一斉に開発を始めます。
欧州の薬価制度は、NHR(National Health Reimbursement)と称し、医薬品を使用した時点では定価で代金を払うのですが、後日、保険機構からの払戻しがあります。払い戻し率は医薬品の重要性などによって40%とか、70%とか、ランク付に差があります。 欧州統合前に承認された品目はラテン系諸国とチュートン系諸国では大きな差がありました。日本はラテン系諸国で開発された品目を好んで導入しておりました。ラテン系諸国では薬効ははっきりしないものの
副作用が少ない天然抽出系物質が好まれたの対しチュートン系諸国は、副作用は強烈でもいいので薬効が顕著なもの、シャープな薬が好まれ北米も共通の志向がありました。 いずれにせよ投与量については、日本は欧米諸国の数分の1とか、一桁少なく、とにかく副作用を抑えるというポイントが強調されていました。
 
欧州統合に伴い、各国毎に承認を取得した過去のものはそのまま存続しつつ、新しいものはブラッセルで統一審査を実施し
薬価算定は各国毎という方式へ移行しました。
 
欧州の場合、薬価そのものを調整する、つまり医薬品メーカーにとっての売上単価を動かす、のと払い戻し率の調整という二つの調整弁があります。 
 
昨年、英国で抗体医薬品の一品目が保険適応を取り下げられる「事件」が発生しました。 薬価が高く、保険財政を圧迫すると考えられると、一応薬効について意見はつくものの、実質的には財政上の理由でもって保険適用取り消し、という事態も起こってしまいます。 英国の場合は税金で医薬品の「払戻」予算を賄うため薬剤費の増加は財政を直撃します。ドイツのように社会保険料を別途集めている国では英国ほど薬剤費変動に敏感ではありません。
 
欧州でも薬価を設定したら、あとは自動的に薬が使われる量に比例して、健康保険の支払いが増えることが問題となり、承認前に医薬品メーカーに売上予想を提出させ、まあ、それ位の量ならこれ位の値段もしょうがないか、、、 という「交渉」をやる国もあります。そして「事業計画」を所定以上に上回って薬剤が使用された場合は払戻率を引き下げたり場合によっては中断して予算圧迫を緩和します。欧州統合といってもお金の話は国ごとに随分異なります。また、高い薬価を認めてもらうため、医薬品メーカーがわざと低い売上予想を提出する傾向があるため最初から健康保険が支払う金額の総額の上限を決める国もあります。 国民皆保険は素晴らしい制度ですが日本では薬の単価だけを決めてしまうので使用量に比例して健康保険の支出が自動的に増えてしまいます。財源と支出のバランス調整をしっかりやらないと機能できなくなってしまいます。承認を取得するまでのハードルはものすごく高くまた尋常でないコストがかかるのですが一度薬価を定めてしまうとあとは「やり放題」の傾向があり保険診療医がやみくもに高い薬価がついた医薬品を大量処方してしまうという現象が随所に見られます。医薬品の適切な使い方や科学的妥当性は無視され「国が認めた」「エビデンス」があるものとして風邪の患者に抗生物質を投与したり、本当に疫病が発生した時に使うべきインフルエンザの新薬を普通の風邪の人に大量処方するという問題を繰り返しています。
 
 
日本は、国民皆保険制度を採用し、NHI (National Health Insurance)と呼ばれていますが、NHI価格は保険機構が薬剤を処方した医療機関に支払う価格を示し、患者は個人負担分のみを医療機関へ支払うという方式です。 欧州式に比べると、患者資金繰り負担は最も軽くなっています。 逆に、薬価の高い新薬を承認すると健康保険財政を直撃します。 
 
 
随分と長くなりましたので、続きは明日以降、、、、 

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