藤井真則のブログ

このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
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2020年04月25日

  

がん, 免疫

手術で免疫が下がるという話が飛び交っているようです。

 

手術で体力が落ちれば「何となく」免疫が下がって感染症にかかりやすくなることもあるかもしれない、という「感じ」はしないでもないですが。特に極端に体力が落ちる厳しい手術の場合はですね。 ただ手術の手技の工夫や抗生剤などの投与により感染対策も施し、よほどのものでない限り手術そのもので感染しやすくなるということはそれ程ないのではないでしょうか。 手術によって細胞性免疫が低下するとする報告はいくつもありますが、測定しているのがある一部のパラメーターであったりするなど、それをもって免疫が低下していると言い切れるのか疑問なものが目につきます。 免疫が上がる、下がるという話が多いのですが、手術後に感染症免疫能力がどうなるか、それは測定して「意味のある」データにすることはできません。 あくまで経験則でみていくしかありません。

 

がんに対する免疫、腫瘍免疫は測定することはできますが手術を実施する病院では腫瘍免疫能力の検査はしていません。外科の先生はよく手術で免疫が下がるから、手術によってがん細胞が取り切れればいいけど、体内にがん細胞が残る場合は、猛烈なスピードで増殖を始めるので手術をするならあくまで全部のがん細胞を取り切るという前提で行う、そういう話をよくされます。 明確に転移巣がある場合は最初から手術不能と判断されます。腫瘍が二個あるということは両方が原発であればそれはそれで大きな問題なのですが一つが原発巣でもう一つが転移巣であった場合、画像に映る転移巣以外に多くの微小分散がんが存在するはずで、画像にまだ映らないだけ、とそう考えるわけです。 ですので二か所なら二か所同時に手術すればいいではないか、とはならないのです。 二か所あれば沢山ある、ということで、免疫が下がった体内で微小分散がんが猛烈に増殖を始めると考えるようです。 

 

外科の先生とお話していると、あまりイメージされていないようなのですが、手術をすると傷ついた組織を回復するために大量の上皮細胞増殖因子が放出され、これを受ける上皮細胞増殖信号レセプターを過剰発現するタイプのがん細胞は爆発的な増殖を始めます。免疫力低下よりも、増殖信号による影響の方が大きいような印象があります。これは測定できるわけではありませんので、多くの症例をみていて受ける印象ということです。

 

では腫瘍免疫の決め手であるNK活性はどうかというと手術で少し下がることもありますが、逆に大きな腫瘍が除去されて上昇することもあります。大きな腫瘍は一般に強く免疫抑制(NK細胞の活動の抑制、感染症免疫にはあまり影響しません)をかけていますので、これがいなくなるプラスの効果もあります。 一方、放射線照射や抗がん剤投与を行うと、程度次第、かつケースバイケースですが、一般にNK活性が低下します。重粒子線や陽子線照射の場合は影響ありません。分子標的薬そのものには免疫抑制作用はありませんが、抗がん剤と併用される場合は当然、抗がん剤投与による影響があり、標準治療の場合は抗がん剤との併用が多く、免疫系のがん治療薬である分子標的薬がNK活性を下げながら投与されているという大きな矛盾をはらんでいます。また、保険診療の場合は、NK細胞ががん細胞を攻撃するのを待つか、手伝うのが作用機序である分子標的薬を投与する際に免疫抑制作用が強いステロイドを投与することが多く、これも一体、何をしているのか、という状況になっています。 なお免疫チェックポイント阻害薬によるNK活性への影響は測定していません。原理的にはあまりないのでしょうが、まったくない訳でもないだろう、というところです。 

 

まとめますと、手術の部位や規模、手術時間などにもよりますが、ただ手術したというだけで危険なレベルの免疫低下ということはあまり想定されていません。ただし、放射線や抗がん剤投与となると、これはもう免疫力の著しい低下が想定されるので注意が必要です。

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