藤井真則のブログ

このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
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TOP > 免疫チェックポイント阻害薬は分子標的薬の一種 (1)

2015年10月30日

  

くすり, 免疫

2015.10.30.
 
 
免疫チェックポイント阻害薬を
メディアが報道する場合
免疫治療とか、免疫治療薬
あるいは、新免疫療法などと
いう表現をされています。
 
間違いではありません。
 
 
ただ、薬の分類としては
「分子標的薬の一種」とするのが
ごくごく、普通な呼び方、です。
 
 
もっとも、分子標的薬という言葉自体が
日本独自のもので、
明らかに「不思議な」
言い方です。
 
英語では、Biologicals と表記します。
 
 
生物学の知識に基いて、
「ここを止めれば薬になる」と
デザインされた上で、開発された薬
という意味です。
 
医薬品は物質であり
物質は、特定の物質に結合するのが
ほとんどですから、ほぼすべて
といっても100%ではありませんが
糖尿病の薬であれ
降圧剤であれ
コレステロール合成阻害剤であれ
何であっても
9割何分かの医薬品は
分子標的薬と呼ばれて然りの
はずです。
 
 
それが日本では、抗がん剤や、
リューマチの薬として
90年代以降から次々に
実用化されたBiologicals を
分子標的薬と呼ぶ風習が
定着してしまっています。
 
 
この言い方を通例とするなら
間違いなく免疫チェックポイント阻害薬は
「典型的な分子標的薬」 です。
 
 
いや、免疫系に特化しているんだから
免疫治療であると強調した方がいいのでは
と考える人もいるようです。
 
 
そこに違和感があるのですが
分子標的薬は、基本的に免疫系治療として
使われるべきもの、です。
 
世界の趨勢は免疫重視にとっくに
舵を切っており、免疫系の活用や
協調を前提にした分子標的薬が
標準治療となっているにもかかわらず
つまり、免疫治療が世界標準であるにも
かかわらず、相変わらず、これまで
免疫治療にはエビデンスがなかったなど
訳のわからない
世界の常識を無視した
トーンで語ってしまう人々が
まだまだメディア界では
幅を利かせています。
 
 
分枝標的薬の中でも
特に、ADCC活性を有する分枝標的薬は
 
NK細胞の傷害活性を高めることにより
 抗腫瘍効果を発揮する
」 
 
と明確に医薬品の添付文書にも記載されています。
 
 
免疫チェックポイント阻害薬の標的は
T細胞特異的とは言えませんが
一応、T細胞への抑制信号を
ブロックしているのである
としています。
 
実際、そういう面はあるのでしょうし
「がんと正常細胞を区別できない」 T細胞が
漠然と活性化されるため、正常細胞も攻撃され
自己免疫疾患で死亡例まで出ています。
 
T細胞は、特定の免疫信号を特異的に攻撃する
のであって、その信号は、がん細胞に特異的では
ありません。 つまり、「がん細胞特異的に」攻撃
することはできないのです。
 
T細胞をいじると、こういうジレンマに陥ります。
 
 
T細胞が認識する免疫信号は
数百億種類もパターンがあります。
個々のT細胞は、各々、
ひとつのパターンを認識します。
たまたま、あるがん細胞だけを
攻撃するように「見える」だけで、
同じ信号を持つ正常細胞は極めて
少ないので、目立たないだけです。
その代り、少しでも信号が異なる
他のがん細胞は攻撃できません。 
 
しかも、T細胞がどうやっても
認識できない がん細胞が
たくさん、存在します。
(一人の患者さんの中に
 いろんながん細胞がおり
 T細胞攻撃には生き残るものが
 必ず存在するのです)
 
そこへもって、免疫チェックポイント阻害薬は
漠然と、多くのタイプのT細胞を活性化しますので
仲間の正常細胞を襲うものも活性化されるのです。
 
 
これに対して、他の多くの分子標的薬がもつ
ADCC活性は、
 
NK細胞の攻撃スピードを速めるものです。
 
 
NK細胞は、正常細胞を襲わず
がん細胞を「特異的に」攻撃しますので
免疫チェックポイント阻害薬にみられるような
自己免疫疾患は誘発しません。
 
 
こちらの方が、実用的であり
現実の がん治療でははるかに
使い手があるのです。
 
ところが、分子標的薬が登場した当初
日本では、21世紀のしょっぱな頃ですが
従来型三大療法全盛時代でした。
 
「進行がんは治らない」 という
認識が日本で、広まったのは
概ね2005年ころあたり
それまでは、従来型標準治療には
「エビデンス」があり
正しい治療なのである、と。
免疫細胞療法など
民間療法の類と言われてました。
そこへ、免疫細胞の攻撃スピードを
速めるなどと言っても、
それなんの話 ?
免疫とがんって、何か関係があるのか ?
そもそも、その分子なんとかって何 ?
 
「有効性が証明された抗がん剤があるのに
 何で、また、別の薬がいるのか ?」
 
というレベルからスタートしたので
とてもフィーバーにはなりませんでした。
しかも、免疫系の薬である分子標的薬を
免疫系にダメージを与える殺細胞剤と併用したのですから
今一、切れ味がないように見えたのも
注目を集めきれなかった背景となっています。
 
ところが、スーパーレスポンダー
つまり、やたらと分子標的薬がよく効く患者さんが
いらっしゃるので、分枝標的薬はすごいじゃないか
と現場の医師が立ち上がりました。
 
実際、従来から実用されている分子標的薬は
条件が整えば、免疫チェックポイント阻害薬より
はるかに切れ味があり、大きな腫瘍が消滅し
再発しないこともあります。
 
 
 
 
(つづく)

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