藤井真則のブログ

このブログはリンパ球バンク株式会社の社長時代に、会社社長ブログとして会社HP上に掲載されていたものです。ちょうど還暦を迎えるタイミングで社長の責を後任に譲り一時は閉鎖しておりましたが、再開を望まれる方もいらっしゃるため、別途個人ブログとして再掲載するものです。ANK療法という特定のがん治療に関しては、同法の普及のために設立されたリンパ球バンク株式会社のHPをご覧ください。
本ブログは、あまり標準的ではない特殊な治療の普及にあたり、「常識の壁」を破るために、特に分野は特定せずに書かれたものです。「常識とは、ある特定の組織・勢力の都合により強力に流布されて定着したからこそ、常識化した不真実であることが多い」という前提で書かれています。

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2020年05月30日

  

免疫

ワクチンの本当の話(1)からの続きですので、できれば(1)を先にお読みいただきたいのですが、重要ポイントはいくつか繰り返しておきます。

 

さて、日本人の場合、新型コロナウイルスによる死亡者数が少ない理由として以下の様な説が査読前の状態で発表されています。

 

新型コロナウイルスは無症状ですむことが多いS型が流行し、この時点では問題にならず世界中に広まった。ウイルスは互いに感染の邪魔をする「干渉」作用を起こすことがあるが、S型は弱すぎてインフルエンザウイルスの感染への干渉はあまりない。そこへ毒性が強まったK型という変異株が出現。欧米では国外との移動制限を強化していたためK型はあまり流入せず、S型のみが広く流行した状況だった。日本では中国人の入国制限が緩くK型が大量に流入、流行した。K型も無症状のケースが多いが感染力はS型より強く、S型が流行済の日本でも割って入り、そしてインフルエンザウイルス感染に干渉した。日本でインフルエンザウイルスの流行が急激に少なくなったのは移動制限や手洗いの励行というより、K型に感染することで干渉作用によりインフルエンザウイルスに感染しにくくなったからと考える。そして毒性が更に高まり肺炎を起こすリスクが高いG型が流行した。G型は武漢からイタリアへ広がり、ヨーロッパへそして米国への流行が拡大した。S型だけが広く流行していた欧米では、S型に感染することで抗体が誘導され、この抗体が重症化を促進した。ADE(抗体依存性感染増強)として知られる現象で、細胞の外にいたウイルスに中和抗体が結合すると、ウイルスと中和抗体が結合したまま複合体として細胞内に取り込まれてしまい、結果的に多くの細胞へ感染してしまう。体液中のウイルス量が減少したのに重症化するケースが多く報告されたのは細胞内へウイルスが大量に移行したからかもしれない。一方、K型が流行していた日本の場合、K型はS型と違って細胞性免疫も誘導する。つまりウイルス感染した細胞を攻撃するCTL(キラーT、もしくは細胞傷害性T細胞、攻撃型のT細胞)を増強しているので、これがG型の感染に抵抗したため重症化や死亡に至った人が欧米より少なかった。 

 

さて、この説が正しいかどうか検証するのは容易ではありません。論文本紙には数式が並んでおり、骨子は今後どうなるかを予測するモデルの構築なのですが、何せ使用されている感染者数や死亡者数のデータそのものの精度やバイアスの問題が大きく、数式だけ厳密にやってもどこまで意味があるかわかりません。 正しい新説がでたからみんな信じましょうと申し上げたいのではなく、専門家が考えればこういうストーリーもありますよ、そこを申し上げたいわけです。一般に流布されているのは「抗体ができれば感染しなくなる、免疫がついた」という「作り話」の類です。その点、この説には「作り話」にはあまり登場しない「ウイルスの干渉」、「抗体依存性感染増強」、そして「細胞性免疫」が登場します。 ウイルス感染やワクチンを考える時、この三つのキーワードははずせない要なのです。 ウイルスが広まって抗体ができれば免疫がついたんだから大丈夫、とか抗体パスをもつ人だけ移動制限なし、とか「訳のわからない話」が蔓延しています。そんな話ばかり横行するのはウイルスとワクチンについて、基本的な理解が崩れているからです。そして真実はこの3つの要素だけではどうにもならないさらに深い話もあります。 少し面倒くさいかもしれませんが、「ワクチンの本当の話」シリーズ、ぜひご通読ください。

 

免疫とは「疫病(パンデミック)を免れる」と書きます。今日では疫病の定義は複数の大陸にまたがって感染拡大する世界規模の流行とされていますが、新型コロナウイルスのように総人口に対する死亡率が0.01%であってもパンデミックと呼びます。インフルエンザは毎年パンデミックです。かつては総人口の何割が天然痘で死んでしまった、など民族絶滅レベルの脅威のものを疫病と言いました。新型コロナウイルスの死亡率の数百倍とか、1000倍レベルということです。 天然痘を発症して生死の境をさ迷った上で生き延びるた人は生涯、天然痘にはかかりません。疫を免れる=「免疫」を獲得したわけです。重要なのは激甚な急性症状を乗り越えれば、同じ病気にはかからない、というポイントです。 天然痘にかかれば抗体ができて、抗体が二度目の天然痘から体を守ってくれるのではありません。通常、感染症を克服すると、血液中の中和抗体は程なく下がっていきます。それでも同じ感染症にはかからなくなるのです。感染した直後にはいっぺんにいろんなことが起こっており、中和抗体値もよく上昇します。そして血液中の中和抗体値は測定しやすいので、「いっぺんにおこったいろんなこと」の中から中和抗体の上昇だけが目につきやすく、「抗体値があがった」=「免疫がついた」ことなんだという誤解が広がっているのです。

 

さて新型コロナウイルスの感染を予防する具体的なワクチンの話に入る前に、まず「基礎」を整理しておきます。とはいえ、先に申し上げておきますが、「抗体がウイルス感染を防ぐのではない」、むしろADE、抗体依存性感染増強のリスクがあるため、少なくとも「ウイルスのたんぱく質の重要部分のペプチドを抗原として接種して抗体を誘導する」という今現在、山のようにたくさん動いているプログラムは残念ながら話になりません。予防の役に立たないどころか重症化を促進するかもしれません。これまで散々、トライしてうまくいかなかった方法、もちろん他のウイルスに対してのトライですが、突然、新型コロナウイルスに対してだけうまくいくとは考えられません。 ただ、異なるアプローチのものもありますので、それについては後ほど。

 

ジェンナー氏は生きている間に種痘の完成を見ることはなかったわけですが、注意深い観察力によりほぼ基礎を確立していました。一方、非常に深い問題を提起しました。牛痘を接種しなかった子供は当時のよくある悲しい現実通りにほとんどが天然痘にかかってしまい、およそ半数が幼くして死んでしまいました。ところが、天然痘を発症して生き延びた子供たちは健康に長生きしました。むしろ、牛痘を接種して天然痘に感染しなかった子供たちはその時はよかったですし、短期的に見れば牛痘は明確なエビデンスを示し、臨床試験は大成功だったように見えました。ところが彼らはみな病弱で様々な慢性病を患い、20歳になる前に結核などでほぼこの世を去ったのです。 短期的には牛痘はポジティブ、長期的にはむしろネガティブな結果をもたらしたことになります。

 

牛痘は問題が多く、種痘が開発されると実施されなくなりました。種痘を接種すると生涯、天然痘にはかかりませんので、種痘を接種せずに次々に子供が死んでいくより遥かに「平均生存期間」では「延びる」ことになります。明確なエビデンスはあるのです。ただし、天然痘にかからなくなった代償に他の病気にかかっている可能性はあります。それでも天然痘で早々に世を去るより「まし」であり、どう生きたかとか、健康状態ということを一切棚に上げた単純な「生まれてから死ぬまでの時間」 で計れば種痘は効果あり、なのです。

 

さて、ジェンナー氏が亡くなった後に生まれた人ですが、パスツールという人が、「病原体が体に入ることで感染症にかかる」という考え方を提唱しました。当たり前と思われるかもしれませんが、これは大いに論争となり、未だ決着はついていないのです。ただ、当のパスツール氏本人は臨終にあたり「自分は間違っていた。種(たね)ではなく土壌の問題だね。」と言い残して世を去ります。「種と土壌」論争は西洋医学の根底をゆすぶる大激論として両者折り合わず、今日に至っています。「種」派の考え方がどういうものかについてはあまり説明は要らないと思います。パスツール氏の仮説に違和感を覚えない人は「種」派の考え方に染まっているということです。広く常識として定着しています。「新型コロナウイルスに接触したから、あるいは濃密接触したから感染した」 こういう風に考える人は「種」派です。 「元気な人はそもそも風邪もひかない」と考える人は「土壌」派です。 土壌派の論理は「病原体はどこにでもいる。私たちの体の中にもいる。私たちは普段から膨大な病原体と一緒に健康に生きている」 です。「ウイルスが異常増殖するのはそこにウイルスがいたからではなく、ウイルスの異常増殖を招くような体の状態だからそうなった」ウイルス感染症にかかるかかからないかは体の状態=「土壌」次第という考え方です。 もちろんエボラ・ザイールウイルスを「濃密」に浴びせれば多くの人が感染するはずです。こうなるとやはり「種」の問題ではないか、と種派は勢いを得るわけです。 一方、これほど極端に感染力が強いウイルスであっても、中には感染しない「猛者」もいます。平気な人は平気なのです。防護服もつけずに全身、感染者の吐血を浴びながら平然と感染することなく救助にあたる猛者もいるのです。「土壌」派も辛うじて踏みとどまるのです。ただ確率的には非常にきびしいと思われますので間違ってもエボラウイルス感染者に防護服をつけずに近づかないでください、といっても日本では周囲にエボラ患者がいることなどめったにありませんが。これが結核菌となると「元気な人はまず結核にならない」のです。よほど栄養不足か、病弱か、抗がん剤の副作用やエイズに感染し免疫力が低下した、とか何かないとそう結核には感染しません。逆に「何かある」とかなりの確率で結核に感染します。結核に感染し命を落とす人は年間180万人(という数字もあります、という風にやわらかく数字を捉えてください。本当のことはわかりません、正確に数えるのは不可能ですから)。同じ呼吸器系感染症でも結核の脅威は新型コロナウイルスどころではないのです。結核菌はどこにいるのかというと「どこにでもいる」のです。 手洗いだのアルコール消毒だの三密を防ぐなど、何をやっても接触回避は不可能です。 それでもまだ結核菌は外からやってくるのですが、これがヘルペス系のウイルスとなると、ほぼ全員、体内に様々なタイプのヘルペスウイルスがウヨウヨいます。人間の細胞を調べれば多くの場合、膨大な種類と数のウイルスがみつかります。 どんな生き物であっても細胞の中を調べると様々なウイルス(細菌の場合はファージといいますが)がみつかります、酵母菌を除いては。あれだけなぜかみつからない。あとは調べればみつかります。 ウイルスというものは殆どの場合、無害ですが、病原性をもつものも少なからずいます。そして通常は病気にはならず、強い紫外線を浴びたことが刺激になった、猛烈なストレスを受け続けたことが引き金になった、強い薬をのんだら突然、帯状疱疹になってしまった(もともと体内にいたウイルスの異常増殖)、ステロイドを使い過ぎた、極端に衰弱した、など、何か背景があると異常増殖するのです。  私自身、サイトメガロII型ウイルスが異常増殖し多臓器不全に至り人工心肺で命をつないだことがありました。完全に心停止、呼吸停止までいき、黄疸をつくれないほど肝臓は機能せず、腎臓は尿をつくるのではなく、血液がそのまま尿に大量に混じり、足には溶けた肉のこげ茶色のタールのようなものが垂れてかかとや足の裏に溜まっているのが皮膚の上からみることができました。このウイルス、死のウイルスとも言われ、若い人が突然、亡くなる文字通り突然死の原因の多くを占めるのでは? ともいわれてきました。 サイトは細胞、メガロは巨大という意味ですが、ウイルスが細胞の細胞膜同士を融合させ、何個もの細胞が一つの巨大細胞となっていきます。それでサイトメガロというのですが、新型コロナウイルスでも重症患者の肺胞ではこの細胞融合による巨大細胞が出現します。 元々、細胞膜にくっつき、ウイルスが被っている細胞膜と同じリン脂質系の膜と細胞膜を融合させてウイルス本体が細胞内に入る仕組みがあります。大量のウイルスが生成されるとウイルスが接着剤のように機能して細胞同士の細胞膜を融合させて二つの細胞を一つにしてしまうのです。巨大細胞はほぼ機能することはなく、巨大細胞だらけになった臓器は死に体となるのです。 さてこの死のウイルス、どこで感染したのかというと普段から体内にいるのです。日本人の3人に2人はこのウイルスを細胞内にもっています。そして何も起こらずに生きているのです。何かのスパイクが入れば異常増殖を始め、メガロ細胞を量産することになります。 まさに種は常に存在し土壌が種の発芽や生育を許す状態になると種は育ってしまうのです。 

 

新型コロナウイルスによる死亡者の正確な人数はわかりません。WHOは各国政府の自己申告を単純に足しているだけ。各国政府は各国政府の思惑で数字を報告し、それは「推測値」に過ぎません。感染症の確定診断はむつかしく、簡便なスクリーニング法を実施しているだけのケースが殆どですが、それでも感染者全員を網羅するのは不可能に近く、しても検査しても偽陽性や偽陰性が多く、また「何をもって死亡原因とするのか」これはむつかしいのです。 老衰で亡くなったのかもしれない。では老衰とは何か?という問題もありますが、新型コロナウイルスに感染していていもいなくても、その人はもう最期の時がきていたのかもしれません。ですが、日本では新型コロナウイルスのPCR検査の結果が陽性だったら、その人は「新型コロナウイルスで死んだ」ことにされてしまいます。「新型コロナウイルス感染が原因で死亡した」とは限らず「死んだ人が(たまたま)新型コロナウイルスに感染もしていた」のかもしれず、統計上は後者をカウントしていながら、発表される数字は前者の数字と誤解される表現になっています。逆に感染しているものの検査を受けていない、検査を受け、実は本当は感染していたのに検査結果は陰性の判定だった、いろんな可能性があります。PCR法の精度は30~70%と言われていますが、つまりこの豪快に幅のある数字は「よくわからないものなのです」と言っているのです。数字というのはあてにならない、という前提で、敢えて「推測されている数字」について触れます。結核菌による(ほんとに原因なのか? この手の話、いくつも棚が必要なのです、棚とは、とりあえず話を上げておく棚のことです)死亡数180万人、インフルエンザによる死亡数100万人、これだけの背景の中で新型コロナウイルスによる死亡数は、このブログを書いた今日(5月30日)の時点で36万人です。 これを単純に足してしまうと、実際の死亡者数より多くなる可能性があります。というのは複数の感染症に感染している人がいるかもしれないからです。エイズで亡くなる人は100万人ですが、3割くらいは結核に感染したのが最期のとどめと考えられています。30万人ほどは結核とエイズで同じ人をカウントしている計算になります。今シーズンの出始めは異常にインフルエンザの流行が激しかったのですが、新型コロナウイルス騒動と共に、ある時、突然インフルエンザ感染者数が激減しました。このままいくとインフルエンザで亡くなる方は例年よりはるかに少なくなるでしょう。そして、シーズンというのをどこで締めるかにもよりますが、主だった呼吸器系感染症による死亡者数の合計はどうなるでしょうか。 丸々、新型コロナウイルス感染による死亡者数の分だけ総合計も増えていたら、「新たな感染症が加わった」ということになります。ところが、このままいくと、例年より総死亡者数が少なくなる可能性もあります。これは計算の仕方で答えがひっくり返るので何とも言い難いものがあるのですが、新型コロナウイルスが加わり、その分は呼吸器系疾患で死亡する人が増えたのは間違いなく、同時にインフルエンザによる死亡(インフルエンザ脳症も含まれてしまいますが)が例年より少ない可能性は大、合わせるとプラスになるのかマイナスになるのか、そして一番インパクトの大きい結核による死亡がどちらに転ぶかで全体の趨勢は決します。BCGを強制接種(日本では定期接種と名称を変えましたが、実態は強制接種です、接種条件に該当する全国民に強制的に接種するのですから)する日本は結核による死亡者数が任意接種である欧米各国より多いという現実があります。(よくお読みください、誤植ではありませんので。) BCGワクチンというのは結核菌を弱毒化して感染させる生ワクチンです。日本では標準的には生後5~8ケ月の間に接種します。 4ケ月より前、逆に1年より後には接種しないことになっています。あまりにも生後すぐだと弱毒化されていても感染(関節の障害など重い副作用を発症する)するリスクがあること、逆に生後1年以降は免疫が激しく応答し、つまり強い刺激を受けてしまい、あとから接種する他のタイプの生ワクチンを撃退してしまう、すると他のワクチンは効果を上げる前に体内から一掃されてしまいます。 また結核に自然感染した後にBCGを接種すると過剰反応することもあり、自然感染前に早くワクチンを接種したい、といった背景があって生後の一定期間内に接種されています。 ワクチン効果は10~15年ほど持続します。小児結核の予防に関しては接種した方がしないよりも結核発症率が4分の1ほどに低下するのでワクチン効果ありとしています。結核菌というのは細胞の内部に入り込んできます。ワクチンの目的は結核菌に感染している細胞を傷害するCTLの誘導と、マクロファージによるフリーの結核菌の貪食作用の促進です。結核で命を落とされるのは高齢者や長期慢性病による入院患者などが多いわけですが、BCGワクチンを子供の時に接種しても大人になったらもう効果はありません。子供の間は、おそらく弱得化された結核菌が体内で生き延び、野生型の強毒性の結核菌の感染に干渉しているのでしょう。免疫学的な問題はBCG接種によって免疫寛容にならないのか、というポイントです。生後1年以内に接種するわけですから、「これは異物ではないんだ、一緒に生きていくんだ」と自己抗原や仲間の抗原を排除しなくなる免疫寛容が成立することが懸念されます。自分自身の正常細胞を攻撃するCTLは胸腺の中で殺されていきます。生後1年以内だと、腸内細菌群も大人より活発に体内に入ってきます。腸の穴の中、ちくわの穴の中ではなく、ちくわの中身の方に入ってくるのです。有益どころか生きていくのに必須の腸内細菌を免疫細胞が攻撃するとよろしくありませんので、小腸内では仲間の腸内細菌を攻撃する細胞傷害性T細胞(CTL)を排除する選別が行われます。この微妙な時期に弱毒化され、それほど免疫を刺激しないBCG菌を接種して免疫が仲間だと勘違いするようなことがあると、その人の体内では本物の結核菌を攻撃すべきCTLが選別され排除されてしまう可能性があります。そうなるともう大人になっても結核菌を攻撃するCTLが不十分なので感染しやすくなるのかもしれません。小児結核を予防する目的のあまり国民のほぼ全員にBCGを接種している国では、結果的に結核により肺炎死リスクが高い人々が新型コロナウイルス性の肺炎になる前に亡くなっていく、そのため新型コロナウイルスの死亡者は少ないというロジックになります。なお全世界では新型コロナウイルスによる死亡者数に対してインフルエンザによる死亡者数はおよそ3倍、結核による死亡者数はおよそ5倍ですが、国内ではインフルエンザは新型コロナウイルスのおよそ10~30倍、結核は2倍強です。結核による肺炎死のバックグランウドが新型コロナウイルスの脅威をはるかに上回るのは日本も全世界も共通ですが、日本に限ると両者は接近し、結核死だけで新型コロナウイルス死が少ない説明にはなりません。両方を加えても欧米の新型コロナウイルス死より絶対数として下回ることに変わりはないからです。日本の場合は、インフルエンザによる死亡をどう見るかで全体の趨勢が決まります。もっとも、個別に確定診断しない他の原因による肺炎死がありますので、実際の状況はもっと複雑です。

 

 

 この問題、「土壌」派的な考え方をすると、「肺に重い問題を抱えている人がいる、その人は1年以内に肺炎などで命を落とす可能性が高い、そして日本では多くの人が結核で命を落とすので新型コロナウイルス感染による肺炎で命を落とす人は欧米よりも少なくなる。逆に欧米では結核で命を落とす人が少ないので、他の何かで命を落とす可能性が高く、例年ならインフルエンザで命を落とすところ、今年は新型コロナウイルスもいるので、そちらで命を落とす人が増え、増えた分だけインフルエンザで命を落とす人は減るはず」 ということになります。もちろん、「今年は致死レベルの問題を肺に抱える人が多い」のか、あるいは「少ない」という前提条件が例年と違う可能性もあります。数字で証明するのはむつかしいのですが、何年も同じ基準で統計を取り続ければ、結局、新型コロナウイルスが加わっても亡くなる人の大勢に影響はなかった、ということになるかもしれません。

 

ここまで天然痘という疫病の権化から話を起こし、それは人類の感染症の歴史の中で感染症の中の感染症であり、また数千年のワクチンの歴史も時間の長さでいえば大半が人痘という天然痘ワクチンの歴史であるため、まずそこから始めたわけです。ところが、天然痘(痘瘡ウイルス)と新型コロナウイルスには決定的な違いがあります。前者は人を宿主とするウイルスであり、後者は人を宿主としないウイルスです。人間のウイルスなのか、人獣共通感染つまり他の動物を宿主とするウイルスなのか、最近ではどこかの研究所を宿主とするウイルスというのもあるのですが、最後のは前の二つのどちらかの性質をもつとしましょう。

 

ワクチンの本当の話(3)では、人間を宿主とするウイルスにまつわる話、人はそもそもなぜ病気になるのか、そもそもウイルスとは何か? という話を、(4)では、現代型パンデミックの始まりでもあり、人類史上、絶対数では最大の犠牲者を出したスペイン風邪から学ぶべきことと、当時流行したウイルス「インフルエンザH1N1型」の再来である2009年の新型インフルエンザ・パンデミック騒動の実態と顛末について、(5)では種痘の成功といくつかの微妙なワクチン、そしてどんどん効果がなくなっていった現代型ワクチンの問題、新型コロナウイルス対策としてズラリ並ぶワクチン候補のまとめとワクチンよりはるかに効果があると考えられる対策についてを書く予定です。

 

2021.8.25. 追記 上記は2020年5月に書かれたものです。その後、2020年を締めれば、日本における肺炎死総数は前年に比べて1万5千人も減少しました。超過死亡数、つまり原因を問わず、亡くなった人の総数も前年に比べてマイナスです。つまり大きく捉えて、2020年の状況を見る限り日本では特別、危険な病原体が流行しているようには見えない、ということです。いや、実際に新型重症肺炎ウイルス陽性者が死亡している、それはその通りですが、この国では毎年、肺炎で十数万人が亡くなっているのです。風邪をこじらせても肺炎で亡くなる人がたくさんいらっしゃるのです。そこへ新型重症肺炎ウイルスが加わり、死亡者が激増しているなら危険な病原体が流行した可能性が高くなりますが、これまでのところは、元々、人が亡くなっている中で、新型重症肺炎ウイルスに感染している人が増え、その分どころか、それ以上に他の肺炎で死亡している人が減っているという状況にあります(なお、統計上の肺炎死というのは、結核やインフル、誤嚥性など、肺炎の原因を医師が特定したものを除く「その他」の肺炎死として、1万5千人前年より減少ということです) さて、8月にはデルタ株のシェアも高くなり、PCR陽性判定者数は激増し、重症者も増えていますが、8月前半をみる限り死亡者の伸びは鈍化しました。 海外でも感染者数と重症者数は増え、死亡者は減るという傾向を示す国がありますが、日本の場合も同じ傾向を示すのか、死亡者数はリードタイムがあるため、今後は増え始めるのか、どうなるかが注目されています。もし感染者数が増えても、死亡者数が減っていけば、むしろ有害性は下がってきたとも考えられます。逆に今後死亡者数が激増すると、これは大きな問題です。

 とはいえどちらに転んでもどのみち、拡散してしまったウイルスを根絶する方法はありません。天然痘は撲滅に成功しましたが、「抜群の効果を発揮できる生ワクチンが開発可能なタイプのウイルスであった」こと、「人間のみを宿主として、感染者を隔離すれば根絶可能だった」という背景があります。 今回のウイルスはハムスターに感染、発症しますが、ネコにも高率で感染します。発症はしませんが。また変異が激しく生ワクチンの使用は無理です。ということは、ずっと存在し続けるウイルスであるということであり、中途半端な規制をかけても封じることはできず、また、ロックアウトをやってもやっている国で封印ができていないわけですが、移民などの貧困層を中心に生活苦に陥る人々の間で死亡者が激増するため、かえって被害が大きくなる可能性があります。米国では2020年に、前年よりも1000万人もの「食糧不安」状態の人が増えたと報告されています(FEEDING AMERICA)。 ごく一般的な感染症であっても重症化したり死亡に至るリスクが高くなっていると考えられます。速やかな規制緩和と財政出動が急務です。

 

なお、ワクチンについては「ワクチンこそ決定打だ」と、開発中や接種が始まる前から断言する人々がいる一方、ワクチンに頭から反対する人もいらっしゃり、あまりバランス感覚のある説をみかけることはありません。実際はどうかというと、従来、発表されてきた数字に関してはあてにならないものでした。接種後1~2週間の有効率という数字が一人歩きしましたが、接種による刺激が自然免疫の活動レベルを高め、多くの感染症に対する抵抗性が高まるのは当たり前です。いわゆるアジュバント効果を観ているにすぎず、逆に、接種直後は副反応が強いだけあって自然免疫の活動が強化され、感染しにくくなるはずで、英国のように1月の間に国民の半数とか一気に接種した国は感染者が一時的に激減する効果がでても不思議はありません。ただし、アジュバント効果は長続きしません。また抗体を誘導した場合、血液中の中和抗体に感染を予防する効果を期待するのは無理で、(粘膜にウイルスが感染する時点で血中中和抗体はウイルスと接触もしないため)、血液中や体液中にウイルスが侵入してきた際に重症化を防止できるのか、という観点と、ADE(抗体依存性感染増強)という作用によって、抗体がかえって感染を強めてしまうリスクの両方があります。ワクチン接種が進むことで、重症者の数が減る可能性も増える可能性もどちらもあるわけです。また、入院患者を調べてワクチンを接種していない人は接種していた人より重症化リスクが遥かに高い! という話が昔からよく登場するのですが、これはバイアスを考慮する必要があります。ワクチンを接種「できた」人は特に重い持病なり、何か強い症状なりがなかった人々です。ワクチン接種が危険と判断された人は接種できないからです。当然ながら、「接種した人」は基本的に「接種できた人」なのであり、「接種しなかった人」は、「医学的に接種危険と考えられた人、医学的に接種できなかった人」と「できたのにしなかった人」あるいは「接種希望ながらまだ実現していない人」などを含みます。当然ながら「接種できた人」より「接種できなかった人」の方が重症化率が断然高くなるはずです。こういう数字をマスメディアがどんどん流せば流すほど、「不信感」が強まるわけです。一方、スタンフォードのグループがNATURE誌に発表していたビオンテック社のワクチンの解析は大変、興味深いものがあります。長い話は省きますが、一言でいうと、このワクチンは「免疫応答を得ている」、ざっくり言うと「効果があるのでは」と考えられるだけの免疫システムの反応をひきだしているということです。抗体の場合は、どっちに転ぶかわかりませんが、血中中和抗体は誘導できています。接種直後から数週間は自然免疫の活動レベルが高くなっているのであろうと推測されるだけの免疫刺激作用を確認できます。たとえばガンマインターフェロンの血中濃度が高くなっているとか、いくつものパラメーターが免疫刺激がかかっていることを示しており、炎症系の免疫細胞も活発に活動しています。副反応が強くでる事実とも一致しています。また、ワクチン効果として抗体よりも重要な細胞性免疫、特にウイルス抗原に特異的に反応する細胞傷害性T細胞(CTLとか、キラーT細胞と呼ばれるもの)が高レベルで誘導されています。mRNAワクチンは30年前から本格的に開発が試みられ、これまでなかなかうまくいかなかったのですが、今回、特に新しい技術が投入されたように見えないものの、見事に免疫応答をひきだしているということは、どういうことなのか考えていたのですが「投与量でしょ」という専門家の一声に納得しました。あまり副反応が強いとうってくれないので、投与量を抑えてきたのですが、それをやると効果が犠牲になります。今回は大騒動ですから少々、副反応が強くても許されるとふんで、思いっきり投与量をあげてきたのでしょう。ともかく、ワクチンの効果判定は難しいものですので、簡単に○○率が何%とか、接種した人はしていない人より○○倍高い、という類の話は科学的に正確ではありません、そして一方で、ワクチン否定派が言うほど、今回のワクチンはでたらめなものではなく、しっかりと免疫応答を引き出していますので、短期的には感染予防効果を、そして、もう少し長いスパンで死亡リスクを下げる効果があるだろうと考えられるだけの作用を発揮しています。ただし、天然痘や麻疹、黄熱に対する生ワクチンのような接種すると生涯とか、十数年とか感染もしない、というような切れ味抜群の効果を期待するのは無理があります。また、感染予防については、経鼻ワクチンが来年にはでてくるでしょうから、こちらには大きく期待していいと考えます。生ワクチンが開発できないタイプのウイルスでかつ粘膜から感染するウイルスに対しては粘膜にワクチンを接種するのがセオリーです。mRNAワクチンの場合は粘膜細胞に感作させてもすぐに粘膜細胞ごと代謝されてしまいますから、代謝ペースが極めて遅い筋肉細胞を狙ったわけです。一方、粘膜は筋肉よりはるかに免疫応答が敏感なところですので、mRNAよりもウイルス抗原たんぱく質そのものにいくばくかの免疫刺激を伴うアジュバント(助剤)を加えておけば、十分な免疫応答をひきだせるはずです。

 

 

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